ブログAX推進の事例11選|業界別に実名企業の数値で解説

AX推進の事例11選|業界別に実名企業の数値で解説

AX推進の事例を業界別に紹介するアイキャッチ画像

AX(AIトランスフォーメーション)を任されたものの、他社が実際に何をどう変えたのかが見えず、自社の一歩目を決めかねている担当者も多いのではないでしょうか。ネット上のAX事例は、製造業は予知保全といった抽象的な用途の羅列にとどまり、どの企業がどんな成果を出したのかまで踏み込んだものは多くありません。

本記事では、取り組みを自社で公表している11社の事例を業界別に整理し、公式発表や一次情報で裏取りした公表数値とともに紹介します。各社が何を設計し直したのかも一言で紹介しているため、AX推進の勘所が業界を越えて共通することが見えてきます。

さらに、成功事例だけを見ていては気づけない失敗の分かれ道や、大企業の取り組みを自社の規模に置き換える手順などを、推進担当者の目線で解説します。事例を自社の計画に変えるための材料として、ぜひお役立てください。

目次

AX推進の事例を読み解く3つの視点

AX推進の事例は、どのAIツールを導入したかではなく、AIを前提に業務をどう設計し直したかという視点で読むと、自社への応用が見えてきます。業界を越えて成果を出した企業には、次の3つの共通点があります。

AX推進の事例を読み解く3つの視点(どの業務を組み替えたか・人とAIの役割分担・効果を何で測ったか)を示す図

1つ目の視点は、AIを入れる前にどの業務を選び、どう組み替えたかです。記事や発表で目立つのは導入したAIの名前ですが、実際に効いているのは、その手前で対象の業務を絞り込んだ判断のほうです。ツールの名前だけを真似ても同じ結果にならないのは、この順序が抜けるからです。

2つ目は、人とAIの役割をどこで線引きしたかです。作業をAIに任せる一方で、最終的な判断や承認は人が手放していません。この分担が曖昧なまま対象を広げた取り組みは、AIの誤りをそのまま社外へ出してしまいます。

3つ目は、効果を何で測ったかです。成果を公表している企業の多くは、売上への貢献ではなく削減できた時間や品質の指標を成果に置いています。AIの効果は売上と切り分けにくく、時間や勝率であれば現場でも検証できるためです。

この3点を頭に置くことで、自社業界の事例から他業界の工夫も自社に持ち帰れるようになります。

製造・食品業界のAX事例

大量の定型業務と現場の暗黙知を抱える製造・食品業界では、日々の使い方の底上げと、間接部門の判断業務の自動化が進んでいます。

パナソニック コネクト|社員の使い方を変えて削減時間を伸ばす

パナソニック コネクトは、AIの使い方を聞くから頼むへ切り替えることで、削減効果を大きく伸ばした事例です。設計し直したのは、ツールではなく社員の使い方でした。

同社はパナソニックグループのB2B事業を担う会社で、サプライチェーンや流通・小売などの現場向けソリューションを手がけています。2023年2月から、自社向けAIアシスタントのConnectAIを国内約11,600人の社員に展開してきました。

注目したいのは効果の伸び方です。2024年の削減時間は年間44.8万時間に達し、前年の2.4倍へ伸びました。押し上げたのは利用者数ではなく、質問を投げる使い方から、コード生成や資料レビューといった作業ごと任せる使い方への変化です。

設計し直したもの公表されている成果
社員のAIの使い方2024年に年間44.8万時間を削減

味の素グループ|経理の承認判断をAIエージェントに委ねる

味の素グループは、これまで人が担ってきた間接部門の判断業務にAIを踏み込ませた事例です。組み替えたのは、経理の承認プロセスそのものです。

グループ8社の財務・経理業務を受託する味の素フィナンシャル・ソリューションズは、AI開発のファーストアカウンティングと共同で経理AIエージェントを開発し、2026年2月に稼働させました。申請データと領収書を読み込ませると、AIが勘定科目を判定し、領収書の必須項目を確認したうえで、経費精算の承認と差し戻しを判断します。

従来この承認と差し戻しの判断には、経理担当者が1件あたり約5分をかけていました。月1万件規模の判定をAIが担い、年間約1万時間の削減を見込むと報じられています。定型的な経費精算の判定を任せることで、経理担当者はより付加価値の高い業務へ時間を振り向けられます。

設計し直したもの公表されている成果
経理の承認プロセス経理業務で年間約1万時間の削減を見込む

金融・保険業界のAX事例

正確性と機密性が重視される金融・保険業界では、組織そのものの作り替えと、全社員への権限開放という2つの方向でAX推進が進んでいます。

アフラック生命保険|DX推進部を廃止しAX組織へ移行

アフラック生命保険は、AIの活用を組織の設計にまで踏み込ませた事例です。設計し直したのは、ツールでも業務でもなく、推進する組織の形でした。

同社はがん保険を主力とする生命保険会社で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の先進企業として知られてきました。その同社が、2026年1月1日付でAX戦略統括部とAX開発部を新設し、DX推進部を廃止する組織変更を発表しています。AI・データアナリティクス部はデータ統括部へ改称されました。

狙いは、AIを主軸とした先進技術によるビジネス変革を全社で推進することにあります。DXの看板を掲げた部署をあえて畳み、誰がどの責任で推進するのかという組織の骨格を組み替えた判断は、AX推進を任される担当者にとって示唆に富みます。

設計し直したもの公表されている成果
組織の形2026年1月にAX組織を新設・DX推進部を廃止

大和証券|全社員にAIを開放し本来業務へ時間を回す

大和証券は、一部の部署に閉じず、全社員が使える環境を早期に整えた事例です。見直したのは、AIを使える人の範囲と、生まれた時間の使い道でした。

同社は国内大手の証券会社です。2023年4月、全社員約9,000人を対象にChatGPTの利用を開始しました。マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを使い、入力した情報が外部に漏れないセキュアな環境を構築しています。

同社が狙ったのは、単なる効率化ではありません。英文資料の要約や企画書の素案づくりをAIに任せ、そこで浮いた時間を顧客と接する時間や企画立案という本来業務へ回すことに主眼を置いています。効率化を時間の再配分とセットで描いた点が要点です。

設計し直したもの公表されている成果
全社員への権限開放全社員約9,000人にChatGPTを開放

小売・流通業界のAX事例

売れ筋の変化に素早く追いつく必要がある小売・流通業界では、中核である商品開発の進め方そのものをAIで組み替える動きが出ています。

セブン-イレブン・ジャパン|商品企画の期間を大幅に短縮

セブン-イレブン・ジャパンは、商品企画という中核業務のプロセスを組み替えた事例です。組み替えたのは、企画を練り上げる工程の進め方でした。

同社は国内に2万店以上を展開するコンビニエンスストアチェーンです。2024年春から商品企画に生成AIを導入し、企画にかかる期間を最大で10分の1に短縮すると発表しました

仕組みは、全店舗の販売データとSNS上の消費者の声をAIが分析し、商品の企画文や画像案を作成するというものです。人が仮説を立てて資料に落とし込む工程をAIが引き受け、担当者は出てきた案の取捨選択に時間を使えます。流行に素早く追いつくために企画の進め方ごと変えた点が、他業界の事例とも重なります。

設計し直したもの公表されている成果
商品企画のプロセス企画にかかる期間を最大10分の1に短縮

運輸・物流業界のAX事例

人手不足が深刻な運輸・物流業界では、熟練者の勘に頼っていた計画業務のAI化と、現場スタッフまで含めた全社的な底上げが進んでいます。

アスクル|熟練者の勘に頼っていた在庫移動をAIが指示

アスクルは、ベテランの経験に依存していた計画業務を、AIが再現できる形に置き換えた事例です。設計し直したのは、拠点間で在庫を動かす計画の立て方でした。

同社はオフィス用品などの通販を手がける企業です。2023年11月、物流センターと補充倉庫の間で、いつ・どこへ・何をいくつ運ぶかをAIの需要予測モデルが指示する仕組みを発表しました。従来は担当者が経験と知見をもとに手作業で計画していた工程です。

ALP横浜センターでは、商品の横持ち指示を作成する工数が1日あたり約75%減り、入出荷作業も約30%減という実績が出ています。特定の熟練者しか持てなかった勘という暗黙知を、誰でも使える仕組みへ変えた点が注目されます。

設計し直したもの公表されている成果
拠点間の在庫移動計画横持ち指示の作成工数を約75%削減

日本航空(JAL)|デスクのない現場までAIの対象に含める

日本航空は、オフィス勤務の社員だけでなく、空港の現場スタッフまで含めてAIを使える形を整えた事例です。設計し直したのは、誰をAX推進の対象に含めるかという線引きでした。

同社は独自の生成AIツールJAL-AIを開発し、グループ全従業員が文書作成や問い合わせ対応に使えるようにしました。さらに空港業務に特化した空港JAL-AIを用意し、カウンターやラウンジではiPadから危険物の確認やアナウンス文の作成に使えるようにしたと報じられています

空港JAL-AIの実証では、グランドスタッフの90%以上が、顧客への回答やアナウンス文の作成が速くなったと回答しました。デスクを持たない現場職を後回しにせず、最初から対象に含めた設計が、全社への浸透を支えています。

設計し直したもの公表されている成果
現場を含む全社の業務グランドスタッフの9割超が対応の速さ向上を実感

建設・不動産業界のAX事例

専門職の経験とセンスに支えられてきた建設・不動産業界でも、創造的な工程の入り口をAIが支える取り組みが始まっています。

大林組|設計初期のデザイン検討をAIが支援

大林組は、専門職の創造的な業務にAIを組み込んだ事例です。見直したのは、設計初期のアイデア出しの進め方でした。

同社は国内大手の総合建設会社です。米SRI Internationalと共同で、建築設計の初期段階の作業を効率化するAiCorbを開発したと2022年に発表しました。スケッチや3Dモデルを与えると、建物の外観にあたるファサードのデザイン案を複数提案し、設計用プラットフォーム上で3Dモデル化します。

従来、設計者はアイデア出しから作図まで手作業で進めており、案を用意する準備だけで時間を要していました。ここでAIが担うのは案出しであり、どの案を採用するかを決めるのは設計者です。クリエイティブな領域でも、作業と判断を切り分ければAIを組み込めることを示しています。

設計し直したもの公表されている成果
設計初期のデザイン検討設計案をAIが複数自動生成

IT・通信・サービス業界のAX事例

AIを扱い慣れたIT・通信・サービス業界では、働き方のルールごと変える取り組みと、事業の稼ぎ方そのものをAIに賭ける取り組みが現れています。

LINEヤフー|生成AI活用を義務化し働き方を再設計

LINEヤフーは、個人の工夫任せにせず、働き方のルールそのものを変えた事例です。設計し直したのは、AIを使うかどうかを個人に委ねる前提でした。

同社はYahoo! JAPANやLINEを運営するIT企業です。2025年7月、全従業員約11,000人を対象に、業務における生成AI活用の義務化を前提とした新しい働き方を開始しました。会議の要約や資料作成など、AIで代替できる作業はAIに任せることを前提に置いています。

掲げているのは、3年で業務生産性を2倍にするという目標です。あわせて、生成AIのリスクやプロンプトの作り方に関する研修を全従業員に用意しました。使ってもよいという許可ではなく、使うことを前提にルールを組み替えなければ、AIは使う人と使わない人に分かれたまま定着しません。

設計し直したもの公表されている成果
働き方のルール3年で業務生産性2倍を目標

サイバーエージェント|広告効果の予測を報酬にまで組み込む

サイバーエージェントは、AIの予測精度に自社の報酬まで賭けた事例です。作り替えたのは、クリエイティブの制作工程と、その報酬の受け取り方でした。

同社はネット広告事業を主力とする企業です。配信中で最も効果が高い広告に新しい案の効果予測を競わせ、上回った案だけを納品する極予測AIを提供しています。報酬は広告効果が出たときにのみ受け取る、成功報酬型のモデルです。

先行テストでは、配信中の効果1位の広告に対する勝率が、通常の制作プロセスの2.6倍に達しました。効果を売上ではなく勝率という検証可能な指標で測り、その数字に自社の報酬を連動させた点が、他社と一線を画す設計です。自社の取り分を成果に賭けるからこそ、AIの予測精度を上げ続ける動機が社内に働きます。

設計し直したもの公表されている成果
制作と報酬のモデル通常制作に対し広告効果の勝率2.6倍

公共・自治体のAX事例

民間に先んじて生成AIの全庁活用に踏み切った自治体もあります。導入して終わりにせず、使われ方まで検証した事例を1つ紹介します。

横須賀市|自治体初のChatGPT全庁活用と使い方の検証

横須賀市は、自治体として初めて生成AIの全庁活用に踏み切った事例です。見直したのは、日々の文書作成の進め方でした。

同市は2023年4月から6月にかけて、ChatGPTを全庁で使う実証を行いました。職員が普段使うビジネスチャットにAPIを連携させ、文章作成や要約、誤字チェックに使える形にしています。最終アンケートでは約8割の職員が、仕事の効率が上がる、利用を続けたいと回答しました。

注目したいのは、市が使われ方まで検証した点です。実証では約3割の職員が、生成AIの苦手な検索用途に使っていたことが分かりました。この気づきは、環境を配るだけでは適切な使い方が根づかないことを、行政の現場から裏づけています。

設計し直したもの公表されている成果
全庁の文書作成実証で約8割の職員が効率向上を実感

業界を越えて共通する成功のパターン

11社が変えたものは業務・ルール・組織とばらばらですが、進め方には重なりがあります。業界を問わず共通する成功のパターンを5つ紹介します。

業界を越えて共通するAX推進成功の5つのパターン(業務再設計・判断は人に残す・検証できる指標・使い方の設計・時間の再投資)を示す図

ツール選定より前の業務の再設計

1つ目のパターンは、ツールを選ぶ前に対象の業務を決めていることです。

11社はいずれも、先にAIを配ってから使い道を募るという順序を踏んでいません。セブン-イレブンは商品企画、アスクルは在庫移動の計画というように、時間がかかっている工程を特定したうえでAIを当てています。

この順序が逆になると、ツールは入ったが使う場面がないという状態に陥ります。AI導入がつまずく原因の多くは、AIの性能ではなく業務設計の側にあると言えるでしょう。自社で始めるなら、AIツールの比較検討より前に、どの業務にどれだけ時間がかかっているかを書き出すことが先決です。例えば、月次レポートの作成に毎月20時間かかっていると分かって初めて、そこにAIを当てる価値があるかを判断できます。

判断を人に残したままの作業の委譲

2つ目は、作業をAIに任せながら、判断は人が持ち続けている点です。

大林組ではAIがデザイン案を出しますが、採用を決めるのは設計者です。セブン-イレブンでもAIが商品の企画案を作りますが、どの案を世に出すかを決めるのは人の役割です。

作業はAI、判断は人間という線引きは、単なる心構えではありません。生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあり、その誤りを外に出さない最後の関門が人の確認です。例えば、問い合わせへの返信文はAIに下書きさせてよくても、送信の前に内容を確かめて承認するのは人が担う、といった線引きになります。どこまでAIに任せ、どこから人が責任を持つのかを業務ごとに決めておくことが欠かせません。

売上ではなく検証できる指標で測る

3つ目は、効果を現場で検証できる指標で測っていることです。

パナソニック コネクトの44.8万時間、アスクルの工数約75%減、サイバーエージェントの勝率2.6倍というように、公表されている数字はいずれも時間や品質に関するものです。売上が何パーセント伸びたという形では語られていません。

これには理由があります。売上は市場環境や他の施策の影響を受けるため、AIの貢献分だけを切り出せません。一方、削減時間や勝率であれば現場で検証でき、人件費に換算すれば投資判断の材料にもなるのです。例えば、1件30分かかっていた作業が10分になったと分かれば、縮んだ20分は誰が見ても同じ数字として残ります。最初の指標は、従来かかっていた時間や品質との差に置くのが確実です。

全社に配る前の使い方の設計

4つ目は、アカウントを配って終わりにしていないことです。

パナソニック コネクトの削減時間が前年の2.4倍に伸びた要因は、利用者数の増加ではなく、1回あたりの削減時間が28分へ伸びたこと、つまり使い方の質が変わったことでした。横須賀市も、実証を通じて職員の使い方の偏りを把握しています。

例えば、資料の要約を頼むといった軽い用途で止まっている社内利用は、削減時間もそこで頭打ちになります。議事録から次のアクションまで書き起こさせる、過去の提案書を読ませて構成案を作らせるといった、工程ごと預ける使い方を社内に示せるかどうかで差がつきます。配って終わりにせず、どの業務をどう任せるかの手本まで用意して、初めて削減時間は大きく動き始めます。

創出した時間の再投資先

5つ目は、生まれた時間を何に振り向けるかまで決めていることです。

削減時間は、それ自体が目的ではありません。大和証券は浮いた時間を顧客と接する本来業務へ回すと明言し、LINEヤフーが掲げる生産性2倍も、空いた時間で成果を増やす前提の目標です。

ここを決めずに効率化だけを進めると、現場はAIに仕事を奪われるのではないかと身構えます。例えば、削減できた月10時間を新規顧客への訪問に充てると先に示しておけば、現場は効率化を自分の成果につながる話として受け取れます。空いた時間の行き先が先に見えていれば、警戒は前向きな期待へ変わります。浮いた時間を人にしかできない仕事へどう回すか。ここまで示せて初めて、AXは組織に根づきます。

事例が語らない失敗の分かれ道

公表される事例は、成功した側だけです。同じ手順をなぞっても成果が出ない企業には共通の落とし穴があります。事例からは見えにくい失敗の要因を3つ紹介します。

配っただけで利用率が上がらない状態

1つ目の分かれ道は、ツールを配ったものの使われないまま終わる状態です。

パナソニック コネクトが公表している月間の利用者率は49.1%で、前年から14.3ポイント伸びています。全社への展開から2年近く経った時点でも、月に一度でも使う社員が約半数という数字です。横須賀市の実証でも、約3割の職員が生成AIの苦手な検索用途に使っていました。

これらは、環境を配れば自然に浸透するという前提が崩れやすいことを示しています。放置すれば、契約したライセンス費だけが毎月出ていきます。誰がどの業務で使うのかを決め、使われない原因を一つずつ潰す地道な運用が要ります。その原因が入力してよい情報の線引きの曖昧さにあるなら、必要なのは新しいツールではなく1枚のガイドラインです。

PoCから運用に渡らない断絶

2つ目は、PoCで手応えを得たのに、日常の業務に乗らないまま終わることです。

試験導入は、限られた期間とメンバーで行うため、うまくいきやすい条件が揃っています。前向きな担当者が丁寧に使えば、結果は出て当然です。

しかし本番の運用では、AIに関心のない社員も含めた全員が対象になります。誰が入力データを整えるのか、出力を誰が確認するのか、変わった手順のマニュアルを誰が直すのか。この受け渡しを設計しないまま広げると、現場は元のやり方へ戻ります。設計・実装・運用を切り離さず、最初から定着までを一続きで考えることが要点です。例えば、PoCの段階で本番の運用担当者を決めて同席させておくと、この断絶は起きにくくなります。

売上で効果を測ろうとする誤り

3つ目は、効果を売上で測ろうとして、評価そのものが破綻することです。

経営会議で予算を通す際に、売上への貢献を求められる場面は少なくありません。しかしAIの導入効果を売上何パーセント増と約束すると、達成しても要因を切り分けられず、未達なら取り組み全体が失敗と見なされます。その結果、成果が出ていた業務まで止められてしまいます。

これを避けるには、最初の合意の時点で指標を削減時間に置くことです。削減した時間に人件費単価を掛ければ、投資回収の見通しは説明できます。ROIも、売上ではなくこの形で語るほうが正直で、社内の納得を得やすいはずです。最初の指標の置き方一つで、取り組みが続くか途中で止まるかが変わります。

大企業のAX事例を中小企業に置き換える手順

ここまでの事例は、いずれも数千人規模の企業のものです。10人や50人の会社が同じ形を目指す必要はありません。置き換えるべきは規模ではなく、進め方の順序です。

大企業のAX事例を中小企業に置き換える4ステップ(業務の棚卸し・誤りが外に出にくい業務を選ぶ・削減時間を1か月測る・推進担当を1人決める)を示す図

最初にやることは、業務の棚卸しです。1週間分の業務を、かかっている時間・発生する頻度・手順が決まっているかどうかの3点で書き出します。パナソニック コネクトが対象業務を絞り込んだのと同じ工程を、部署単位で小さく行う形になります。

次に、書き出した中からミスが外部に出にくい業務を1つ選びます。議事録の要約や日報の整理、社内向け資料のたたき台づくりといった内向きの作業が向いています。顧客への回答や見積書のように、ミスがそのまま損害につながる業務を最初に選ぶと、事故が起きた時点で社内の反対が一気に強まります。

そのうえで、選んだ業務の削減時間を1か月測ります。数字が出たら、隣の業務へ広げていきます。

アフラックのようにAX専門の部署を作る必要はありません。ただし、旗を振る担当者が決まっていない取り組みは、誰の仕事でもなくなって止まります。兼任で構わないので、推進する人を1人決めることから始めましょう。

AX推進の一歩目を事例から決めるために

AX(AIトランスフォーメーション)の事例で参考にすべきなのは、導入されたツールの名前ではありません。パナソニック コネクトは社員の使い方を、アフラック生命保険は組織の形を、サイバーエージェントは事業の稼ぎ方を変えました。いずれもAIを前提に業務を設計し直した結果として、数字が動いています。

11社に共通するのは、業務を決めてからツールを選び、判断を人に残し、効果を検証できる指標で測り、浮いた時間の使い道まで描いていることです。この順序は、規模が小さくてもそのまま真似できます。

まずは自社の業務を1週間分書き出し、誤りが外に出にくい作業を1つ選んでAIに任せてみてください。他社の数字を読む側から、自社の数字を語れる側へ回ることができます。

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